下界見学 1
鷺坂ヒロコいや~。高校なんてついこないだ卒業したと 思ってたけど、やっぱ当時の私は若いわぁ。
鷺坂ヒロコ……あれ? この集合写真。
鷺坂ヒロコ気付かなかった……。 めずらしくアイツが写ってる。プレイヤーアイツって?
プレイヤー今気付いたの?
プレイヤーバレたか
鷺坂ヒロコああ……クラスメイトなんだけどね、 ちょっとクセの強いヤツで……。
鷺坂ヒロコ昔の写真を見るなんて、めったにしないんだ。 いなくなったあなた達のこと、思い出しちゃうから。
鷺坂ヒロコあなたじゃないわよ!
鷺坂ヒロコ実は私、彼に「行方不明の両親に会いたい」って 相談されてたんだけど、力及ばず……。
鷺坂ヒロコ急に新宿公園に呼び出されて何かと思ったら 重い身の上話だったんだよねぇ……懐かしい。
鷺坂ヒロコあの頃に戻れたら解決してあげられるかもね。 あなたもいるし。
鷺坂ヒロコ実は彼のこと、私けっこうニガテだったの。 性格に難がありすぎるというか……。
鷺坂ヒロコでも、両親を探し出してあげられなかったのは すごく後悔してるんだ。
鷺坂ヒロコ8年前、あなたの力が借りられれば 解決できたのかなぁ。
鷺坂ヒロコわっ、奇遇ね! ちょうど連絡しようと思ってたの。
鷺坂ヒロコ私の手に負えないことがあって…… 話を聞いてくれない????もしかすると…… キミが、ヒロコ君が頼りにしているという人物か?
プレイヤーおそらく、そうだ
プレイヤー人違いだ
鷺坂ヒロコ私のクラスメイト、襟糸金士郎君。 彼から少し難しい相談を受けたんだけど――金士郎キミ、名前は? 特別に、この僕の記憶領域を割いてやろう。
金士郎天才である僕に手を貸せることを 光栄に思うといい。
鷺坂ヒロコ……とまあ、性格のクセが強すぎるんだけど 天才っていうところは本当なの。
鷺坂ヒロコテストの成績が常にトップなのは当たり前。 大学入試の問題も小学生の頃から解けていたって。
鷺坂ヒロコま、繰り返すけど性格はクセ強だよ。 人をイラつかせることに関しても天才的。プレイヤー天は二物を与えず
プレイヤーこの性格は常に?
プレイヤーキミよりクセが強い?
鷺坂ヒロコ言えてる。天才的な頭を得るかわりに、 性格部分が残念っていうことね。
鷺坂ヒロコそうなの。 傲慢無礼が平常運転!
鷺坂ヒロコべ、別に私、クセ強くないじゃない! そんな目で見てたの!? ショックなんだけど~!
鷺坂ヒロコでね、彼の依頼っていうのが…… 生き別れた両親を探してほしいっていう内容。
鷺坂ヒロコしかも事情がだいぶ入り組んでいて…… 両親は遺伝子を提供しただけで会ったこともないとか……。金士郎僕は、遺伝子を提供してくれた両親の顔を知らない。 だから、ぜひ会ってみたいのだよ。
金士郎僕はジニアスラボという機関で生まれたのだ。 今もそこに住んでいる。
金士郎僕は遺伝子の、最高のかけあわせでつくられた。 生まれながらにして約束された天才なのだよ。
プレイヤーデザイナーベイビーか
プレイヤー両親に関する情報は?
プレイヤーつまりどういうこと?
金士郎ほう、その言葉が出るとはね。 そこそこ物を知っているようだ。
金士郎僕に遺伝子を提供した両親に関する あらゆる情報は、隠されている。
金士郎だいぶレベルを落として話したつもりなのだが もっと落とさなければダメなのか……。
金士郎僕は進化した存在。 人類を超えた次のレベルの生命体だ。
金士郎僕と比較したら、君たちは猿レベル。 いや、せめて類人猿のチンパンジーレベルにしておこう。
鷺坂ヒロコあのさぁ……自分で自分のことどう思ってもいいけど あまり人に言わないほうがいいんじゃない?金士郎なぜだい? 僕は真実を言っているというのに。
金士郎高校だって、知能指数の低い人たちの暮らしを 見学するため、機関に頼み込んで通わせてもらったのだ。
鷺坂ヒロコそういえば、不自然な時期に転校してきたよね。 それに、もっと偏差値の高い高校だってあるし。金士郎そう、高校生活は僕にとって、レベルの低い世界…… 下界を見学しに来ているようなもの。
金士郎だが、機関に閉じこもって研究ばかりの日々から脱し つかの間の自由を手に入れたのも事実。
金士郎そこで見つけたのが、探偵事務所に出入りし、 各地で取材をしている人物だ。
鷺坂ヒロコ私……ってことか。金士郎僕という天才の両親は、どれだけ天才なのか。 どんな顔で、何を成し遂げた人なのか知りたい。
金士郎そして、お父さんお母さんと、呼んでみたいのだよ。 似たレベル同士で、親子の会話をしたいのだ。
金士郎僕は下界に疎い。 両親を探すためには、君の力を借りねばならない。
鷺坂ヒロコ下界とか、いちいち言い方がモヤっとするけど まあ、両親を知りたいという気持ちは分かる。
鷺坂ヒロコ研究機関ジニアスラボねえ……。 こういうことに詳しい人、知ってる?プレイヤー公安関係者
プレイヤーシモンズ博士
プレイヤー自分に任せろ
鷺坂ヒロコうーん、どうかしらね? 現場の捜査員が知ってるかしら?
鷺坂ヒロコ博士……? ああ、前に聞いたちょっと変わった人?
鷺坂ヒロコあなたジニアスラボって聞いたときに 口開けてたじゃない。絶対詳しくないでしょ。
鷺坂ヒロコ私はまだ会ったことないけど、そのシモンズ博士って人なら 何か知ってるかもね。金士郎心当たりがあるのなら、 ぜひその人のところへ連れて行ってもらおう。
鷺坂ヒロコそういえばさっき……白衣の人を見かけた。
鷺坂ヒロコ金髪ですごく目立ってたし、サブロードの方に行ってたけど。 もしかしてその人なんじゃない? 行ってみる?
城木明日奈……私に何か用でしょうか?
鷺坂ヒロコシモンズ博士って人を探していて、 この辺で白衣の人を見かけたんだけど……
城木明日奈シモンズ博士ならさっきまでここにいました。
城木明日奈用事が終わって離れましたが……
鷺坂ヒロコどこに行ったとか教えてもらえたりとか……
城木明日奈あまり我々の活動を喋るのはよくないですが、 シモンズ博士はこれまでの協力に感謝してるようですし……
城木明日奈あなた達とまた喋りたいとも言っていましたので、特別ですよ。 ……西新宿のビル街の方へ行きました。
鷺坂ヒロコありがとう! 助かる!金士郎ふ~む。 なかなかの才女とみた。それでも僕には劣るが……
城木明日奈…………?
鷺坂ヒロコご、ごめんなさい! はやく行こう、はやくっ!
シモンズ博士ん……ああ、キミたち! いいところに来てくれた。
鷺坂ヒロコめっちゃオバケに襲われてるじゃん!
シモンズ博士私としたことが、迂闊に近づきすぎた。
鷺坂ヒロコ襲われてるわりに、ずいぶん冷静ね……
シモンズ博士恐ろしさ半分…… 間近でデータが採れる喜び半分……
鷺坂ヒロコほ、ほんと噂通りの変人みたいね。 助けてあげないと……!
シモンズ博士やれやれ、助かった。 礼を言うよ。
鷺坂ヒロコ私たちが来なかったら 助からなかったんじゃ……
シモンズ博士天才は運も兼ね備えているものなのさ。金士郎ほう。 あなたも天才なのか。
シモンズ博士……ふむ、この少年は誰だろうか?
鷺坂ヒロコ実は……。
シモンズ博士……なるほど、話は分かった。
シモンズ博士ジニアスラボのことは知っている。 ……が、直接掛け合っても無駄だろう。
鷺坂ヒロコうーん、ダメかぁ。
シモンズ博士ダメとは言っていないぞ。 策はある。
シモンズ博士彼の両親に関するデータは必ず存在し、 厳重に管理されているはずだ。
シモンズ博士正面から頼んでも見せてもらえないのなら ハッキングするしかあるまい。金士郎それは僕も考えた。 しかし、ジニアスラボのセキュリティは強固。
金士郎この僕をもってしても突破できなかった。 マシンスペックもあるのだろうが……。
シモンズ博士マシンに関しては問題ない。
シモンズ博士私のものを使えばハッキングは可能だろう。
鷺坂ヒロコ手伝ってくれるの……?
シモンズ博士実はジニアスラボは公安もマークしていてね。 違法な遺伝子改良を行っているという話だ。
シモンズ博士そしてその被害者が、この少年……という見方もできる。 先ほどの礼を兼ねて今回は手伝おう。
鷺坂ヒロコ……やった。
シモンズ博士私がその気にさえなれば、 さほど時間はかからないだろう。
シモンズ博士そこで少し待っていたまえ。
シモンズ博士ほう……これは……。 ふむ……。
シモンズ博士…………。 そう、か……。プレイヤーデータがあった?
プレイヤー言いにくいこと?
プレイヤーハッキング失敗した?
シモンズ博士あるかないかで言うと、ある。
シモンズ博士こんな私でも多少はためらう内容だ。
シモンズ博士そんなわけがないだろう。 成功したからこそ、戸惑っているのだ。金士郎何をためらっている。 早く話してくれ。
金士郎僕の両親は何者だ? 大学教授か、政治家か、起業家か……。
シモンズ博士大学教授でも、政治家でも、起業家でもない。
シモンズ博士そして、人間でもない。
鷺坂ヒロコど、どういうこと?
シモンズ博士これを見たまえ。 金士郎君の両親の写真があった。
鷺坂ヒロコ……猿?
シモンズ博士猿、というかチンパンジーだな。 レポートもざっと目を通したが、間違いない。
シモンズ博士キミに遺伝子を提供した両親は チンパンジーだ。金士郎…………。
金士郎は、はは……チンパンジー、か。 親子の会話なんて……できないじゃないか……。
鷺坂ヒロコあの……金士郎君……。 えっと、何て言ったらいいか……。
シモンズ博士……言いにくいことではあるが、 これも話しておかねばならない。
シモンズ博士キミは現時点では天才だが、 年を重ねるにつれ、両親に近付いていく。
シモンズ博士つまり“人ではなくなっていく”だろう。金士郎僕が……人ではなくなる……? 会話もままならない、動物に……?
金士郎僕は……僕はっ!
鷺坂ヒロコ金士郎君!
鷺坂ヒロコ走って行っちゃった……。
シモンズ博士走らせておくといい。 簡単に受け止められる事実ではないだろうから。
鷺坂ヒロコねえ。 彼の変化、何年後くらいに始まるのかな?
シモンズ博士もちろん、予測なので確定ではないだろうが だいたいあと5~6年で変化が始まり――
シモンズ博士そして8年ほどで、人ではなくなるだろうという シミュレーション結果が載っている。
鷺坂ヒロコ……彼、性格にはかなり難があって 正直すごくニガテなんだけど……。
鷺坂ヒロコお父さんお母さんって呼びたいっていう気持ち、 親子の会話をしたいって気持ち、分かるんだ。
鷺坂ヒロコ親を亡くした親友を近くで見てるから……
シモンズ博士類人猿を進化させて人為的に天才をつくる、か。 結果として品性は感じられないな。美しさの欠片もない。
鷺坂ヒロコ金士郎君のことが心配ね……。
鷺坂ヒロコ8年後…… 彼、どうなっちゃうのかな。
シモンズ博士人間は類人猿のネオテニーであるという仮説のもと 天才を人為的に作り出す……ふむ。
シモンズ博士彼は8年後、どうなってしまうのやら。
鷺坂ヒロコ私のカンなんだけど…… もう彼には会えない気がする。
鷺坂ヒロコあと8年……。 金士郎くんは8年後、どうなってるんだろう。金士郎……あれ。あなたは……! 僕のこと覚えていますか?
金士郎僕、襟糸金士郎です。
8年ほど前に、両親を探してもらいましたよね。
8年ほど前に、両親を探してもらいましたよね。
プレイヤー人間のまま変わっていない?
プレイヤー今何してるの?
プレイヤーどこか調子悪くない?
金士郎心配してくれていたんですね。 この通り、僕は今でも人間の姿です。
金士郎僕の研究所がこの近くにあるのですが、 今は息抜きの散歩に来ていたんですよ。
金士郎あ、はい。特に問題ないです。
金士郎確かに8年前、両親が人間ではなかったという事実を 受け止めるのに時間はかかりました。
金士郎でも、まずは事実を受け止め……そして 人間でいるための研究を始めたんです。
金士郎僕自身の変化を止める研究。 今のところ、こうしてうまくいっています。
プレイヤー人が変わったようだ
プレイヤー副作用はないのか?
プレイヤー偶然じゃないのか?
金士郎まあ……そうですよね。 昔の僕、だいぶ尊大でしたよね。
金士郎生活に支障はないです。 研究を止められない、ということくらいでしょうか。
金士郎もちろんその可能性もありますが…… だからこそ研究を止めるわけにはいきません。
金士郎あれからいろんな人に研究を手伝ってもらって、 周囲の人の大切さに気付きました。
金士郎ああ、両親にも会ったんです。 お父さんお母さんと呼びました。引っかかれましたけどね!
金士郎あなたにも、やっとお礼ができます。 これをどうぞ。ありがとうございました。
